諭旨退職とは?諭旨解雇との違いや転職への影響を解説

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諭旨退職(ゆしたいしょく)」という言葉をご存知ですか?似たような言葉に「論旨解雇(ゆしかいこ)」がありますが、両者にどのような違いがあるのか分からなかったり、初めて言葉を聞く人も多いかもしれません。

今回は、論旨退職について知りたい方に向けて、諭旨退職と諭旨解雇の違い、懲戒免職や懲戒解雇とはどのように違うのか、気になる退職金や失業保険、転職活動への影響について解説します。

諭旨退職や論旨解雇がどのようなものなのか説明しつつ、「懲戒免職」や「懲戒解雇」との違いについても解説します。

諭旨退職と諭旨解雇の違いについて

「諭旨退職」と「論旨解雇」は、どちらも労働者が解雇に相当する重大な規約違反(※)をした場合、会社からの最も重い処分に当たる「懲戒解雇」よりも、温情的な措置として行われる退職手続きです。

(※)重大な規約違反例

  • 横領、窃盗、傷害など刑法犯人に該当する行為
  • 賭博(金銭や品物を賭けて勝負を争うこと)
  • 重大なパワハラ、セクハラなど
  • 経歴詐称(学歴詐称、職歴・所有資格の詐称、犯罪歴の詐称など)
  • 正当な理由のない長期的な無断欠勤

諭旨退職」と「論旨解雇」は、法律上の規定はなく、適用される要件や手続き内容などは、企業ごとに異なります

まずは、それぞれの意味や違いを見ていきましょう。

懲戒処分の簡潔な内容は以下のようになります。理解しやすいように、一覧にまとめてみました。

【懲戒処分の種類】

種類概要
戒告(かいこく)労働者への注意・指導(口頭で行う)
譴責(けんせき)労働者への注意・指導(始末書を提出させる)
減給一定の期間、一定の割合で賃金を減額
出勤停止労働契約はそのままで、労働者の就労を一定期間禁止(賃金は支給されない)
降格役職や職位を引き下げる(減給)
諭旨退職労働者に対して退職願の提出を促す(従業員が従う場合→自主退職、従わない場合→懲戒解雇、退職金は全額支給か一部支給)
諭旨解雇懲戒解雇よりも若干処分を軽くした解雇(解雇予告手当が支払われる、退職金は全額支給か一部支給))
懲戒解雇会社からの最も重い処分(解雇予告手当が支払われない可能性がある。退職金は全額支給なしの会社も多い)

解雇とは?

解雇とは、企業側による労働契約の一方的な解約を指し、一般に解雇の原因などによって「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の三つに分類されます。

いずれの場合も、原則として問題を解決するための努力や配置転換の検討などを可能な限り行った後の措置となります。

  • 普通解雇

普通解雇は、労働者の傷病などによる労働能力の低下や、勤務実績・勤務態度の著しい低下などが原因で、労働契約を履行できないと認められる場合に適用される解雇のこと。

  • 整理解雇(リストラ)

整理解雇は、企業の業績不振による倒産を回避するための合理化など、経営上の理由を元に人員整理として行なわれる解雇のこと。いわゆるリストラです。

  • 懲戒解雇

懲戒解雇は、会社の懲戒処分のうち最も重いもの。会社の規律や秩序に大きく反した社員に対して、懲戒(不正または不当な行為に対しての制裁)として行われる解雇のこと。

諭旨解雇

そもそも「諭旨」とは、趣旨を諭し、告げるという意味。使用する側と労働者が話し合い、両者が納得したうえで処分を受け入れるというのが諭旨解雇の概念です。

論旨解雇については、法律上で定められているわけではないので、適用される要件や手続き内容は会社ごとに異なります。

多くの場合、処分の理由が懲戒解雇よりも相対的に軽く、「労働者本人が自らの過ちを認め、深く反省している」と判断され、酌量の余地があるとされた場合などは、「懲戒解雇」ではなく「論旨解雇」という形が取られることになります。

会社からのペナルティが最も大きい「懲戒解雇」の場合は、退職金などが支給されないことも多い(退職金支払規程にその旨の記載がある場合)のに対し、論旨解雇の場合は、退職金が全額または一部支給されるなど、懲戒解雇と比較すると労働者が被る不利益が軽減される傾向があるようです。

諭旨退職

「論旨退職」と「論旨解雇」は、どちらも会社側の温情措置としての意味合いが強い退職手続きです。

こちらも法的な定めはないため、あくまで会社の就業規則により、適用される要件や手続き内容は異なりますが、一般的に論旨退職は論旨解雇よりもさらに穏やかな措置になります。

論旨退職と論旨解雇の違いは、退職願の提出の有無でしょう。

論旨退職では、労働者に対して退職願の提出を促し、退職願が提出されれば「自己都合退職」、退職願が提出されなければ「懲戒解雇」として処理されます。

つまり、諭旨退職は「解雇」ではなく「自主的な退職」であるのに対し、「解雇」と位置付けているのが「論旨解雇」です。

諭旨退職と諭旨解雇の処分内容は、会社ごとにルールが異なる

「諭旨退職」「諭旨解雇」について説明してきましたが、どちらも法律で定められた制度ではありません。そのため、会社によって判断基準や対応は異なります

基本的には、両者は同一な処分とされ、どちらか一方が就業規則に規定されているケースが一般的です。

「諭旨退職」と「諭旨解雇」についての詳細を知りたい方は、企業ごとに処分内容が異なりますので、就業規則を確認して自社での取り扱いについて確認してみてください。

免職や懲戒解雇とはどう違う?

会社の辞め方、処分にもさまざまな形がありますが、「免職」や「懲戒解雇」とはどういった意味なのか、イマイチ理解できていない人も多いのではないでしょうか。

ここでは、「免職」や「懲戒解雇」について具体的に解説します。

懲戒免職【公務員の強制解雇・民間企業の懲戒解雇に相当する】

「懲戒免職」とは、国家公務員や地方公務員など、公務員に対する強制解雇を指す用語です。民間では、「懲戒免職」の代わりに「懲戒解雇」が使われます。

公務員の場合、公務執行にあたって重大な支障をきたした場合、懲戒免職が発令されます。

※任命権者は懲戒免職を行う前に、国家公務員の場合は人事院へ、地方公務員の場合は人事委員会もしくは公平委員会へ解雇予告の除外を申請し、認定が得られると懲戒免職が適用される。

懲戒免職を言い渡されてしまうと、即日強制的に解雇されるばかりか、退職金も出ない非常に重い処分となります。

懲戒免職に当たる事由は、懲戒解雇と同様のものです。

  • 横領、窃盗、傷害など刑法犯人に該当する行為
  • 賭博(金銭や品物を賭けて勝負を争うこと)
  • 重大なパワハラ、セクハラなど
  • 経歴詐称(学歴詐称、職歴・所有資格の詐称、犯罪歴の詐称など)
  • 正当な理由のない長期的な無断欠勤

このように、公務員として国民または市民の信用を欠くような行為が認められると、懲戒免職という手段が取られます。

懲戒解雇【労働者に科されるペナルティの中でも極めて重い処分】

改めて、懲戒解雇についても詳しく解説したいと思います。

労働者の立場が手厚く保護された日本では、簡単に労働者を解雇することはできません。適正な手続きを経ることはもちろん、労働者本人に弁明の機会を与えることも必要です。

また、懲戒解雇は会社の懲戒処分のうち最も重いものであるため、「会社の規律や秩序に大きく反している」という、社会通念上の相当性が認められた場合のみ適用され、そうでない場合の解雇は無効になります。

労働者側が不当解雇を訴えて裁判となった事例も多数あり、そういったトラブルを避けるためにも、会社側は慎重な判断が必要です。

もしも不当に解雇されたのではと疑問に感じる点があれば、無料の相談窓口を設置している弁護士事務所も多数ありますので、一度相談してみるべきでしょう。

懲戒解雇の場合、退職金が支払われない可能性も高い

会社からのペナルティが最も大きい懲戒解雇の場合、「退職金が支給されない」ケースも多いようです。

懲戒解雇に処されるということは、会社に重大な損害を与えたことになりますが、必ずしも懲戒解雇=退職金が支払われないという訳ではありません。

退職金の支払いの有無、減額などは会社ごとの就業規則に基づきます。会社が退職金制度を設けていれば、懲戒解雇の場合の扱いが明記されています。

会社の就業規則に「懲戒解雇の場合は、退職金の支給は行わない」と規定されていれば、懲戒解雇された労働者は退職金を受け取れません。

そして「懲戒解雇の場合は、減額して支給」とあれば、明記されている計算方法で減額され退職金が支給されることになります。

ひと口に懲戒解雇と言っても、事案の重大さは同じではありませんので、退職金の不支給または減額も、事案の重大さや対象となる労働者の在籍時の会社への貢献などに応じて、認められるのが一般的です。

諭旨退職・諭旨解雇でも退職金や失業保険はもらえる?

懲戒解雇の場合は、会社の規定により退職金が不支給・減額となるケースが多いですが、諭旨退職と諭旨解雇の場合はどのように処理されるのか気になりますよね。

ここでは、諭旨退職と諭旨解雇の退職金や失業保険の扱いについてお伝えします。

退職金について

これまで何度もお伝えしてきた通り、諭旨退職と諭旨解雇は法律上の規定はないため、退職金の支払いについても、会社の就業規則に従うことになります。

ただし、給与などと異なり法律上で退職金の支払いの義務はないため、会社に退職金に関する規定がなければ、諭旨退職・諭旨解雇・通常の退職など、退職の形に関わらず、退職金は支払われません。

就業規則、労働協約等によって支給条件が定められている場合は、退職金も労働基準法上の賃金として扱われるため、退職金の支払い義務が生じます。

これは、雇用する側には、労働者に対して労働の対価としての「賃金」を支払う義務があるためです。

労働基準法 第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>

退職金の支払いの有無は、その会社にとって退職金が賃金に該当するのか、恩給的・任意的なものにすぎないのかによって、扱いが変わってきます。

会社の就業規則に退職金に関する規定があり、支給条件を満たしていれば、諭旨退職や諭旨解雇にも退職金は支払われます。

通常は、自己都合退職扱いとして退職金を満額支払うか、諭旨退職・諭旨解雇となった事由を鑑みて減額するかの2通りに分かれているようです。

退職金を減額する場合、就業規則か退職金規定の計算方法に基づいて処理されます。

諭旨退職・諭旨解雇の場合「解雇予告手当」はどうなる?

解雇予告手当」とは、労働者に対して解雇日の30日以上前に、解雇の通知をせずに解雇を行なう際に、支払いが義務付けられている手当のことです。

労基法では、企業が労働者を解雇する際は、正当な理由があっても「少なくとも30日以上前から解雇予告しなければならない」としています。

もし、解雇予告なしで解雇する場合は、解雇までの残日数に応じた金額(解雇予告手当)を支給することになります。

(解雇の予告)

労働基準法 第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>

「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない」と記されているため、懲戒解雇や諭旨解雇など、労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合「解雇予告手当」を支払わなくても良いと思われがちです。

しかし、懲戒解雇する場合であっても、労基署(労働基準監督署)による解雇予告除外認定を受けなければ、解雇予告手当の支払いが必要となります。この認定を「除外認定」と言います

とはいえ、除外認定は、行政判断による厳しい解雇基準によって決定されるものなので、簡単に使える制度ではないため、懲戒解雇の場合も解雇予告手当は支払われるケースが多いようです。解雇予告をしない、または解雇予告手当を支払わずに即時解雇した場合は不当解雇となります。

解雇予告手当についてまとめると下記のとおり。

・諭旨退職  →  退職願を提出して「自己都合退職」となる場合、解雇ではないため解雇予告手当は支給されない。
・諭旨解雇 → 「解雇」扱いのため、解雇予告手当が支給される。
・懲戒解雇 → 会社が除外認定を受けていれば、支払われない。
       除外認定を受けていなければ、支払われる。

解雇予告手当の扱いは、諭旨退職、諭旨解雇、懲戒解雇、それぞれ異なることが分かりました。

次に、会社を辞めた後の失業手当について解説します。

失業保険について

失業保険は、退職したい人が生活の心配をせずに、新しい就職先を探せるよう支給される給付金です。

諭旨退職や諭旨解雇で退職したとしても、会社で雇用保険に加入し、受給条件を満たしていれば失業手当を受給できます

【失業保険の受給条件】

1.「就職しようという意思があり、いつでも就職できる能力もあるが、職業に就くことができない」という、ハローワークが定める“失業の状態”である人
2.退職後すぐに就職する人、就職する意思がない人、ケガや病気、妊娠・出産等ですぐに就職できない人
3.離職の以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上ある

会社に退職の要因がある普通解雇や整理解雇の場合は、「会社都合退職」となりますが、諭旨解雇や懲戒解雇、諭旨退職は処分としての退職なので「自己都合退職」となります

「自己都合退職」と「会社都合退職」では、退職後に受け取れる失業保険の支給時期、支給額が異なります。

具体的には、下記の表のとおり。


自己都合退職(自主退職)会社都合退職
失業保険・支給条件(離職前の以前2年間のうち被保険者期間が通算12ヶ月以上あること)
・支給時期(待機期間7日+給付制限2カ月)※給付制限(5年間のうち2回までは2ヶ月、2回以上は3ヶ月。解雇などが理由の場合はこれまで通り3ヶ月)
・条件によっては、給付日数が会社都合より短くなる。
・支給条件(離職前の1年間で通算6か月以上の被保険者期間があること)
・支給時期(待機期間7日間)
・給付日数(被保険者期間 1年未満、1年以上~10年未満の場合、90日、10年以上20年未満120日、20年以上150日
・条件によっては、給付日数が自己都合より長くなる。

表を見てみるとわかる通り、基本的に支給される失業保険の総額は、会社都合退職の方が自己都合退職よりも多くなります。

諭旨解雇と諭旨退職、懲戒解雇はいずれも自己都合退職に該当するので、失業保険を受け取るには2ヶ月の給付制限が付きます。

自己都合退職の給付制限が、3ヶ月から2ヶ月に短縮されました。なお、期間短縮の対象者は2020年10月1日以降に退職した方です。ただし、最新の離職日からさかのぼって5年以内に3回以上自己都合退職をしている場合は、引き続き3ヶ月の給付制限がかかります。

〈引用元:厚生労働省

諭旨退職・諭旨解雇は再就職の際、不利になる?

諭旨退職や諭旨解雇で会社を辞めた場合、転職活動をする時に不利に働くことはあるのでしょうか?

ここでは、諭旨退職や諭旨解雇は転職活動の際「バレる可能性はあるのか」「不利に働くことはあるのか」解説します。

面接や履歴書で積極的に申告する必要はない

諭旨退職と諭旨解雇の場合、その事実について面接で積極的に申告する必要はありません。履歴書の職歴欄の退職理由は「一身上の都合により退職」と記載して問題ないでしょう。

諭旨退職と諭旨解雇は、会社が労働者の再就職やその後の人生を考えた上で、懲戒解雇ほどの社会的制裁を与えないために取る温情措置であるため、懲戒解雇に比べると再就職で不利に働くことは少ないようです。

ただし、会社指定の履歴書などで賞罰欄があった場合は、その事実について履歴書の賞罰欄に記載してください。

もし、解雇歴を隠して採用されたとしても、後に発覚した際に採用が取り消しとなったり、懲戒解雇になる可能性もゼロではないからです。

離職票・退職証明書を提出するとバレる

離職票は、失業保険の手続きをするのに必要な書類です。離職票には、退職理由が明記されているため、ハローワークの関係者には、退職の理由はバレてしまうことになります。

ただし、次の職場で必ずしも必要となる書類ではないため、提出要望がなければバレることはないでしょう。

退職証明書は、退職者が会社を退職したことを証明するための書類です。

そして、そこにはっきり退職理由が記載されているため、転職先から提出を求められた場合、退職の理由がバレてしまうことになります。

退職証明書は、転職活動中や再就職後に必ず提出を求められるものではないですが、再就職が決定した際、入社準備書類として提出を求められる可能性があります。

経歴詐称は、懲戒解雇になる可能性もはらんでいるため注意が必要です。

まとめ

諭旨退職と諭旨解雇の違いや、それぞれの特徴についてお伝えしてきました。

諭旨退職と諭旨解雇は、労働者が解雇に相当する重大な規約違反をした場合、会社からの最も重い処分に当たる「懲戒解雇」よりも、温情的な措置として行われる退職の形です。

諭旨退職と諭旨解雇については、法律的に規定があるわけではないので、退職金の支給額などは就業規則か退職金規定の計算方法に基づいて処理されることになります。

また、失業保険については、諭旨退職・諭旨解雇どちらも「自己都合退職」として扱われるため、「会社都合退職」と比べると、支給時期は遅くなり、支給額は少なくなります。

面接や履歴書で、退職の理由について積極的に申告する必要はありません。

ただし、事実と違う退職理由を伝えてしまうと、後々採用が取り消されてしまったり、経歴詐称で懲戒免職の可能性もありますので、嘘偽りがないよう注意しておきましょう。