最近は、新型コロナウィルスの影響による経営不振により、早期退職を促す企業が急増しています。
今後の景気回復の見通しが立たない中、「退職勧奨されたらどうしよう」と不安を感じる人も少なくないでしょう。
そこで今回は、退職勧奨とはどのようなものなのか、会社の要求に応じて退職しなければならないのか、退職勧奨された時の対応方法、希望退職や整理解雇との違いについて解説します。
気になる退職金や失業手当についても併せて説明しますので、参考にご覧ください。
退職推奨とは?
退職推奨(たいしょくすいしょう)とは、会社が従業員に「退職して欲しい」と伝え、退職を勧めることを意味します。いわゆる「肩たたき」のことです。
退職推奨は会社が従業員を一方的に辞めさせるものではなく、あくまで両者の合意の元に行われます。
つまり、会社から退職を勧められたからと言って、必ず応じなければならないということはありません。
会社からの退職推奨を受け入れた場合は退職することになりますが、断った場合はそのまま労働契約関係が継続します。
退職推奨で辞めた場合は、原則「会社都合退職」となる
「自己都合退職」か「会社都合退職」か分からない人も多いと思いますが、会社からの退職の勧めによって辞めることになるので、「会社側都合退職(※)」となります。
(※)参照元:厚生労働省46p>
自己都合退職と会社都合退職については、下記のとおり。
自己都合退職(自主退職) | 会社都合退職 | |
内容 | ・労働者側の都合による退職(転職、結婚、介護、転居、病気など) ・労働者が雇い主に退職の意向を伝え辞めること ・履歴書には「自己都合により退職」と記載。 | ・会社側の都合による退職(倒産、人員削減、退職勧奨、解雇 ・会社側に問題があった場合の退職(賃金の未払い、賃金の大幅なカット、過度な長時間労働、パワハラやセクハラなど) ・履歴書には「会社都合により退職」と記載。 |
種類 | ・依願退職 ・辞職 ・懲戒解雇 ・論旨解雇 | ・整理解雇 ・希望退職 ・退職勧奨に応じて行う退職 |
自己都合退職は、転職・転居・結婚・介護・病気療養のための退職などが該当します。つまり自己都合退職は、退職の要因が従業員側にある際の退職のことです。一方で、会社都合退職は、倒産や業績悪化に伴う人員の整理など、会社側の都合で退職するケースが一般的です。さらに、給与の未払いや遅延、大幅な給与の減額、過度な長時間労働、ハラスメント被害など、労働者が「辞めざるを得ない」と判断し、その正当性が認められる場合も会社都合退職に該当します。
退職推奨で辞める場合は、会社の業績の悪化などが理由で退職を勧められ、それに応じた流れです。つまり、原因は会社にあるため「会社都合退職」となります。
会社が退職推奨するのはなぜ?
経営不振のため人員削減したい時や、勤務態度や業務成績などに問題がある従業員を辞めさせたい時に、会社は退職推奨を行うことがあります。
従業員を辞めさせたいのなら「解雇」で良いのでは?と思うかもしれませんが、会社側が「解雇」ではなく「退職推奨」するのには、理由があります。
先ほどもお伝えした通り、会社側が一方的に従業員を辞めさせるのは容易ではありません。
そのため、従業員に退職を勧めて自主的に退職するよう導くのです。
従業員の自主的な退職であれば、「不当解雇だ」と主張されたり、訴訟を起こされるリスクも軽減できます。
このように退職推奨は、会社側にとって「リスクを軽減した上で人員を削減したり、問題のある従業員を辞めさせられる」というメリットがあります。
退職推奨と希望退職・整理解雇の違い
退職推奨と似たような退職の形態に「希望退職」と「整理解雇」があります。それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
ここでは、希望退職と整理解雇それぞれの特徴と、退職推奨との違いについて解説します。
希望退職について
希望退職制度とは、業績が悪化した際に退職金の割増など従業員にとって有利な条件を提示し、一定期間、自主的な退職を募ることです。
希望退職制度と退職推奨、いずれにおいても人員削減のために行われる施策という点では一致します
両者の違いを具体的に説明すると、下記のとおり。
- 希望退職制度 会社が従業員の主体的な退職を募る仕組みのこと(退職金増額など優遇措置を取ることが多い)
- 退職推奨 会社が従業員に対して退職を勧めること
このような意味合いで使われることが多いようです。
希望退職、退職推奨どちらの場合も、従業員の「合意」の上で退職することになるので、解雇のような正当な理由は必要ありません。
希望退職制度を実施する時は、通常目的や応募条件(年齢・職種・金属年数など)、期限、人数などを公表し、通達、メール、掲示板などを利用して行われます。
また、希望退職制度を利用して退職した場合は、「自己都合退職」ではなく「会社都合退職」となります。
早期退職と希望退職は違うの?
早期退職も従業員の希望による退職ですが、先ほどご紹介した希望退職制度を利用した退職の場合、大きな目的は人員削減です。
一方の早期退職制度による退職は、組織の人員構成のバランスを取ることを目的としていたり、従業員個人の障害計画の選択肢のひとつとして利用されます。
早期退職の場合も、希望退職と同じように退職金の割り増しなどの優遇措置が取られることが多いようです。
ただし、希望退職が「会社都合退職」になるのに対し、早期退職の場合は「自己都合退職」となる点はご注意ください。
整理解雇について
解雇とは、会社側による労働契約の一方的な解約を意味します。
一般的に解雇の原因などによって「整理解雇(せいりかいこ)」「普通解雇(ふつうかいこ)」「懲戒解雇(ちょうかいかいこ)」の3つに分類されます。
- 整理解雇
いわゆるリストラのことです。企業の業績不振による合理化など、経営上の理由を元に人員整理をするために行われます。
同じ解雇であっても、普通解雇と懲戒解雇とは意味合いが違ってきます。
- 普通解雇
普通解雇は、労働者の傷病などによる労働能力の低下や、勤務実績・勤務態度の著しい低下などが原因で、労働契約を履行できないと認められる場合に適用される解雇のこと。
- 懲戒解雇
懲戒解雇は、会社の懲戒処分のうち最も重いもの。会社の規律や秩序に大きく反した社員に対して、懲戒(不正または不当な行為に対しての制裁)として行われる解雇のこと。
会社側が一方的に従業員を辞めさせることは、法の定めにより厳しく制限されています。そのため、例え会社の業績悪化で経営が厳しいからと言って、簡単に従業員を解雇することはできません。
労働契約法 第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>
次のようなケースでは、解雇が禁止されています。
【労働基準法】
業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
【労働組合法】
労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
【男女雇用機会均等法】
労働者の性別を理由とする解雇
女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
【育児・介護休業法】
労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇
<引用元:厚生労働省>
このように、会社は簡単に労働者を一方的に辞めさせることができないので、リストラの前段階として、人員削減のため退職推奨をしたり、希望退職を募ることが多いようです。
退職推奨・希望退職・整理解雇・早期退職の違い
退職推奨・希望退職・整理解雇・早期退職について表にまとめてみました。
見比べてみるとそれぞれ違いがあることが分かります。
目的 | 退職の形態 | 特徴 | |
退職推奨 | ・人員削減 ・問題のある従業員を辞めさせたい | 会社都合退職 | ・退職して欲しい従業員に、会社側が退職を勧める。 |
希望退職制度 | ・人員削減 | 会社都合退職 | ・会社が従業員の主体的な退職を募る仕組みのこと。 ・退職金増額など優遇措置が取られることが多い。 |
整理解雇 | ・人員削減 | 会社都合退職 | ・いわゆるリストラ。 ・会社側による労働契約の一方的な解約。 |
早期退職 | ・組織の人員構成のバランスを取る ・従業員個人の生涯計画の選択肢のひとつ | 自己都合退職 | ・労働者個人が選択できる。 |
退職推奨が退職強要になるケース
退職推奨自体に違法性はありませんが、中には違法な退職強要になるケースも少なくありません。
ここでは、どのような場合に「退職強要」となるのか具体的に解説します。
脅す・パワハラしてくる
会社によっては、何度もしつこく退職強要をしてきたり、従業員が会社を辞めたくなるように仕向けてくることもあるようです。
例えば、暴言を吐く、厳しく接してくる、急にノルマを増やす、仕事を全く与えないなど。社会的に相当な範囲を超えてしまっている場合は、退職強要と判断される可能性があります。
無理やり退職届を書かせる
労働者には職業選択の自由がありますから、会社側が退職を強制することはできません。
そのため、退職届を無理やり書かせる行為は完全にNGです。
もし、会社から退職届の提出を求められて、その場で退職届を書くように言われた場合、すぐに応じるのは避けましょう。
退職届は一旦提出してしまうと、後から撤回することはできません。退職は自分自身や家族の人生を左右する重大な問題です。
退職する気がないのであれば、きっぱりと退職届の提出を拒否してください。もし、迷うようならば、一旦持ち帰って検討すれば大丈夫です。
退職推奨で退職する際の退職金
退職推奨で会社を辞める場合、退職金が上乗せされる可能性があります。
ただし退職金(退職手当)は、給与などと異なり法律上で支払いの義務はありません。
勤務先の会社の就業規則に退職金についての記載があり、支給条件を満たしていれば、退職金は支給されます。
退職金の計算方法や支給条件も会社ごとに異なりますので、気になる場合は会社の就業規則をチェックしてみると良いでしょう。
退職推奨に応えて会社を辞める時は、退職金支給額についてしっかり確認しておきましょう。
退職推奨で退職する際の失業手当
失業保険は、退職したい人が生活の心配をせずに、新しい就職先を探せるよう支給される給付金です。
退職推奨で退職する場合も、会社で雇用保険に加入し、受給条件を満たしていれば失業手当を受給できます。
失業保険の受給条件については、下記の通り。
【失業保険の受給条件】
1.「就職しようという意思があり、いつでも就職できる能力もあるが、職業に就くことができない」という、ハローワークが定める“失業の状態”である人
2.退職後すぐに就職する人、就職する意思がない人、ケガや病気、妊娠・出産等ですぐに就職できない人
3.離職の以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上ある
失業保険の受給条件や支給時期は、自己都合退職と会社都合退職で大きく異なります。
退職推奨で辞める場合は「会社都合退職」となりますので、下記を参照ください。
- 支給条件(離職前の1年間に通算して6ヶ月以上あること)
- 支給時期(待機期間7日のみ)
被保険者期間 | |||||
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | _ |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
会社都合の場合、離職前の1年間に通算して6ヶ月以上の雇用保険の加入期間があれば失業保険は支払われます。そして自己都合退職にはある「給付制限期間」がなく、待機期間7日が経過したらすぐに給付金が支払われます。
また、自己都合退職では給付期間が「90日~150日」であるのに対し、会社都合退職は支給期間が「90日~330日」と長くなります。
つまり、基本的に支給される失業保険の総額は、会社都合退職の方が自己都合退職よりも多くなります。
退職推奨された場合の対応方法【労働者には拒む権利がある】
もし、退職推奨されたら、下記のような方法で対応しましょう。労働者には退職を拒む権利がありますので、会社からの退職を勧められてもそれに応じる義務はありません。
ここでは、「会社を辞めて良い時」と「会社を辞めたくない時」2パターンに分けて解説します。
会社側の退職条件をしっかり聞いてみる
退職推奨を受けた時、会社を辞めても良いと考えているのであれば、まずは会社側の退職に関する条件をしっかり聞いてみることをおすすめします。
引き継ぎはどうなるのか、いつまで働くのかということも気になると思いますが、最も重要なポイントは退職金です。退職推奨に乗るのであれば、通常より多くの退職金をもらいたいですよね。
その他にも、優遇されるポイントはあるのか確認してみると良いでしょう。
会社都合退職になるのか確認
退職推奨で会社を辞める場合は、「会社都合退職」になるのですが、会社によっては「自己都合退職」として処理することもあります。
しかし、労働者側にとっては、会社都合になった方が失業保険の待遇が手厚くなりますので、失業保険の手続きで使う離職票にきちんと「会社都合退職」と記載されているかチェックしておくと安心です。
万が一、離職票の離職理由が「自己都合退職」になっていたら、「会社都合退職」に変更するよう要求してください。
退職推奨に応じた場合の退職の条件面について話し合い、納得できたら退職届を提出すると良いでしょう。
退職したくない時の対応方法
次に、退職したくない時の対応方法をご紹介します。
退職推奨をきっぱり断る
退職推奨された時、会社を辞めたくないのならば、会社からの退職の勧めをきっぱりと断りましょう。
この時、形に残るような返事をするのがおすすめです。メールやLINE、書面など。
退職推奨はあくまで会社からの「お願い」であり、退職したくなければ「退職するつもりはない」と回答すれば、本来それだけで問題は解決します。
ただし、きっぱり断っているのにもかかわらず、しつこく「退職して欲しい」と言ってきたり、威をかけてくるような場合は、退職強要になることがあります。
退職推奨されたら証拠を集めておく
もし、あなたが職場で退職推奨されたら、その証拠を集めておきましょう。
後々、退職強要に発展する可能性もありますし、会社都合退職であることを証明するためにも、証拠を残しておくと役立ちます。
例えば、下記のようなものを集めてください。
- 会社から退職推奨された書類
- 会社と退職推奨についてやりとりした時のメールやLINE
- 面談した時の録音記録
- 退職推奨について記した日記や手帳
- 就業規則
- 退職金規定
退職推奨された時の書類や、メールやLINEなど会社と退職推奨についてやり取りした情報は、しっかり証拠として残しておいてください。
面談した時の会話の様子も録音できれば、かなり有効な証拠となります。
また、退職推奨ときから自分でも日記を付けたり、手帳にメモ書きなどを残しておくと安心です。
就業規則や退職規定なども、資料として入手しておきましょう。
信用できる機関に相談する
何度も執拗に退職推奨されたり、脅される、退職届をむりやり書かせようとするなど、退職強要と思える態度を取られた場合は、信用できる機関に相談しましょう。
例えば、労働組合や全国の総合労働相談コーナー、弁護士に相談することが可能です。
会社の労働組合に相談すると、会社に対して「団体交渉」を申し入れてくれる可能性があります。ただし、団体交渉をしたからといって、必ずしも要求を受け入れてくれるとはかぎりません。
また、社内の労働組合の場合、会社に対して強く主張してもらないケースもあるようです。
全国の労働局・労働基準監督署内に設置されている総合労働相談コーナーでは、あらゆる職場のトラブルの相談に乗っています。
総合労働相談コーナーに相談すると、各都道府県労働局長による助言や指導をしてくれたり、紛争調整委員会によるあっせんが受けられる可能性があります。
ただし、総合労働相談コーナーに相談した場合、すぐに対応してもらえないケースも多く、あくまで助言や指導・あっせんに止まります。
今すぐに、そして確実に労働問題を解決したい場合は、お金は少々かかってしまいますが、法律のプロである弁護士への依頼がおすすめです。
どの機関に相談する場合も、問題解決には証拠が必要となりますので、会社から退職推奨されたら、しっかりと証拠を集めておいてくださいね。
まとめ
今回は、昨今増えてきた「退職勧奨」について解説しました。
退職勧奨は、あくまで会社が退職を「お願い」しているだけで、強制力はありませんので、要求に応じる必要はありません。
会社を辞めても良い場合は、退職金の支給額など退職の条件を確認しておきます。もし、会社を辞めたくない場合は、きっぱりと退職のお願いを断ってください。
断っているのにもかかわらず、執拗に退職を迫ってくる場合は、すぐ労働組合、総合労働相談コーナー、弁護士など信用できる機関に相談しましょう。