依頼退職と辞職の違い | 失業保険や退職金、ボーナス、有給取得についても解説

退職ノウハウ
この記事は約13分で読めます。

退職の仕方も、自己都合退職、会社都合退職、解雇、辞職など様々ですが、そのひとつに「依願退職」という退職の形があります。

依願退職という言葉は聞いたことがあっても、どのような意味なのかわからない人も多いのではないでしょうか?

そこでこの記事では、依願退職の意味や辞職との違い、そして気になる失業保険や退職金、ボーナス、有給取得の扱いについても解説します。

依頼退職と辞職の違いは?

まずは、依願退職と辞職それぞれの意味と、違いについてご説明します。


依願退職辞職
意味労働者と会社の合意により労働契約を解除するもの労働者の意思で労働契約を解除させるもの
退職の撤回できる(受理後は不可)できない

依願退職は「自己都合退職」と同義

依願退職とは「労働者と会社の合意によって労働契約を解除する」という意味です。

退職には大きく分けて「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類あり、依願退職は、自己都合退職のひとつに分類されます。

自己都合退職と会社都合退職については、下記のとおり。

自己都合退職(自主退職)会社都合退職
内容・労働者側の都合による退職(転職、結婚、介護、転居、病気など)
・労働者が雇い主に退職の意向を伝え辞めること
・履歴書には「自己都合により退職」と記載。
・会社側の都合による退職(倒産、人員削減、退職勧奨、解雇
・会社側に問題があった場合の退職(賃金の未払い、賃金の大幅なカット、過度な長時間労働、パワハラやセクハラなど)
・履歴書には「会社都合により退職」と記載。
種類・依願退職 ・辞職 ・懲戒解雇 ・論旨解雇・整理解雇 ・希望退職 ・退職勧奨に応じて行う退職

自己都合退職とは、転職・結婚・介護・転居・病気療養などを理由に会社を辞める「退職の要因が労働者側にあるケース」です。

ほとんどの退職者が、自己都合退職で会社を辞めています。

一方で、会社側退職は、会社の倒産や業績悪化に伴う人員の整理、退職勧奨や希望退職に応じた場合など、会社側の都合による退職が一般的

さらに、給与の未払いや遅延、大幅な減額、過度な長時間労働、何らかのハラスメント被害など、労働者が「辞めざるを得ない」と判断し退職する際も会社都合退職に含まれます。

自己都合退職と会社都合退職の違いは?失業保険や失業保険、有給取得についても解説
こちらの記事では「自己都合退職」と「会社都合退職」の違いについて紹介。同じ「退職」でも、 自己都合と会社都合によって違いがあります。例えば、失業給付金の額・給付期間の差など。また、退職金や有給取得についても解説しています。

依願退職では、基本的に「退職願」を提出

依願退職は、退職の申し入れを会社側に承諾してもらうことで成立します。

法律上は、口頭でも申し入れでも構わないとされていますが、「言った」「言わない」論争を避けるためにも、書面で申し入れを行いましょう。

労働者が退職を申し入れる書類には「退職願」「退職届」「辞表」などがありますが、依願退職の場合は、会社側に退職の同意を得るために使われる「退職願」を使います。

  • 退職願 → 会社に退職を「願い出る」書類
  • 退職届 → 退職が確定した後、退職の決定を「届け出る」書類
  • 辞表→会社の運営にかかわる役員以上の方、公務員が職を辞する時に届け出る書類

「退職願」「退職届」「辞表」それぞれの意味・違いについては下記の記事を参照ください。

依願退職は、合意が成立するまで撤回できる

依願退職の場合、会社との合意が成立するまで、退職の申し出を取り下げることが可能です。

(撤回できる期間は、基本的に退職の決裁権限を持つ人が退職願を受理するまで。)

万が一、退職の申し出を取り下げたい時は、退職の決裁権限を持つ人が退職願を受理する前に行いましょう。

受理されてしまうと、合意成立後になるので撤回できません

辞職とは

辞職は、労働者が自らの意志で労働契約を解除すること。基本的に労働組合の組合員ではない、役職者が役職や会社を辞める時に使われます。

一定以上の役職についていない人が会社を辞める場合には、辞職ではなく退職を使うのが一般的です。

辞職と辞任の違いは?

また、辞職と似たような言葉で辞任がありますが、辞任の意味は「就いていた任務または職務を、自ら申し出て辞めること」、辞職は「今まで就いていた職を自ら辞めること」を意味します。

つまり辞職の場合は、その職業から去ることになりますが、辞任の場合は役職やポストから降りても職場から離れるとは限りません。

役員が辞職する際に用いられる書類は「辞表」です。公務員が離職する時にも辞表が使われます。

辞職は通知が通達されると撤回できない

依願退職の場合は、退職の希望を上司に伝え、それが認められてようやく正式に退職が決定します。しかし、辞職は自分で離職を決定し、その旨を書面で届けることになります。

そのため、辞職の場合は書面が通達されたら撤回できません

依頼退職を拒否されることはある?

辞職の場合は「○月○日に離職する」と離職することが決定しているため、会社側は辞表を受け取ったら離職を認めざるを得ません。

しかし、依願退職の場合は、「○月○日に退職したい」と会社に同意を求め、それが認められたら退職するという形になります。

性質上、上司など会社の人と話し合ってから退職日が決まるため、退職願に退職希望日が書かれていても変更される可能性はあるでしょう。

ただし、労働者には職業選択の自由、つまり「退職する自由」が法律によって守られていますから、依願退職であっても必ず会社は辞められます

日本国憲法 第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>

民法627条では、退職を申し出てから2週間で退職できると定められています。

民法 第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

引用元:民法第627

つまり、法律上は退職の意思を2週間前に伝えさえすれば離職できるということになります。

また、退職の意思を伝える方法は、「必ず書面で」と規定されていないので、本来は口頭やメールなどでもOKです。

しかし、きちんと退職の意思を伝えたという証明を残すためにも、適切な書類を提出することをおすすめします。

会社によっては、退職の届出用のフォーマットが用意されているところもありますので、指定がある場合はそちらを利用しましょう。

退職までの期間について法律上は2週間と定められていますが、会社ごとに期間が就業規則で決められていることが多いですよね。

そういった場合は、会社の就業規則よりも法律が優先されます。しかし、円満に退職したいのなら就業規則に定められた期間を守る方が無難です。

依願退職の失業保険、退職金、ボーナスはどうなる?

依願退職の際の失業保険は、自己都合退職の扱いと同様です。

自己都合退職と会社都合退職、各々の詳細についてまとめた表はこちら。

自己都合退職(自主退職)会社都合退職
失業保険・支給条件(離職前の以前2年間のうち被保険者期間が通算12ヶ月以上あること)
・支給時期(待機期間7日+給付制限2カ月)※給付制限(5年間のうち2回までは2ヶ月、2回以上は3ヶ月。解雇などが理由の場合はこれまで通り3ヶ月)
・条件によっては、給付日数が会社都合よ短くなる。
・支給条件(離職前の1年間で通算6か月以上の被保険者期間があること)
・支給時期(待機期間7日間)
・給付日数(被保険者期間 1年未満、1年以上〜10年未満の場合、90日、10年以上20年未満120日、20年以上150日
・条件によっては、給付日数が自己都合より長くなる。
退職金・支給条件(会社に退職金制度があること)・支給条件(会社に退職金制度があること
ボーナス・支給条件(就業規則の条件を満たしていること)・支給条件(就業規則の条件を満たしていること)

依願退職の失業保険

失業保険とは、離職した人が次の職場を見つけるまでの生活を支えるための制度です。

依願退職の場合も、会社で雇用保険に加入しており、支給条件を満たしていれば問題なく受給できます

1.「就職しようという意思があり、いつでも就職できる能力もあるが、職業に就くことができない」という、ハローワークが定める“失業の状態”である人
2.退職後すぐに就職する人、就職する意思がない人、ケガや病気、妊娠・出産等ですぐに就職できない人
3.離職の以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上ある

上記の条件に当てはまらない場合も、自分の意思に反する正当な理由がある場合は「特定理由離職者」に認定され、失業手当が支払われます。

特定理由離職者の範囲についてはこちらをご確認ください。

依願退職は自己都合退職になるため、失業保険を受給するには、「離職前の以前2年間のうち被保険者期間が通算12ヶ月以上」という条件をクリアしている必要があります。

「離職前の以前2年間のうち被保険者期間が通算12ヶ月以上」というのは、同じ会社での加入期間だけでなく、2年間のうち勤めていた会社のトータルで算出します。

  • 2019年5月1日~2019年12月31日 A社(加入期間 7ヶ月)
  • 2020年1月1日~2020年11月30日 B社(加入期間 10ヶ月)

上記の場合、トータルで17ヶ月になり、12ヶ月以上なので支給条件を満たしています。

また、依願退職(自己都合退職)の場合の失業保険支給開始時期は、最短でも待機期間7日+給付制限2カ月と設定されているため、会社都合退職のように会社を辞めてから給付金を受けられるわけではありません。

※給付制限(5年間のうち2回までは2ヶ月、2回以上は3ヶ月。解雇などが理由の場合はこれまで通り3ヶ月)

依願退職(自己都合退職)の失業保険の受給内容については、次のとおりです。

・支給条件退職前の1年間に通算して6ヶ月以上
(離職前の以前2年間のうち被保険者期間が通算12ヶ月以上あること)

・支給時期(待機期間7日+給付制限2カ月)
※給付制限(5年間のうち2回までは2ヶ月、2回以上は3ヶ月。解雇などが理由の場合はこれまで通り3ヶ月)
10年未満10年以上20年未満20年以上
90日120日150日
65歳未満の被保険者期間

これまで自己都合による退職の場合、待機期間7日のあと、給付金を受け取れない3ヶ月の給付制限がありました。

しかし、法改正により令和2年10月1日以降に自己都合退職した場合の給付制限期間は、5年間のうち2回までは給付制限期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮されています。

詳しくはこちらをご覧ください。

依願退職の退職金

退職金(退職手当)は、給与などと異なり法律上で支払いの義務はありません。

しかし、就業規則,労働協約等によって支給条件が定められている場合は、退職金も労働基準法上の賃金として扱われるため、退職金の支払い義務が生じます

これは、雇用する側には、労働者に対して労働の対価としての「賃金」を支払う義務があるためです。

労働基準法 第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>

つまり、退職金の支払いの有無は、その会社にとって退職金が賃金に該当するのか、恩給的・任意的なものにすぎないのかによって、扱いが変わってきます。

会社の就業規則に退職金に関する規定があり、支給条件を満たしていれば、依願退職者にも退職金は支払われます

退職金の計算方法や支給条件などは会社ごとに異なりますが、依願退職も自己都合退職と同じ条件で扱われるのが一般的です。

ただし、依願退職を含む自己都合退職の場合は、会社都合退職よりも金額が少なくなる可能性は高いでしょう。

退職金について詳しく知りたい方は、会社の就業規則や退職規定の内容を確認してみてくださいね。

依願退職のボーナス

ボーナス(賞与)も、退職金と同じく法律で 支給が義務付けられているわけではありません。

労働基準法 第24条② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>

就業規則にボーナスについての規定がある場合は、規定の内容に沿って支払われます

賞与については、労働基準法において細かい規定はありませんが、厚生労働省が同法制定にあたり発行した通達では、次のように定義されています。

(労働基準法の施行に関する件 法第24条関係)

賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであつて、その支給額があらかじめ確定されてゐないものを云ふこと。定期的に支給され、且その支給額が確定してゐるものは、名称の如何にかゝはらず、これを賞与とはみなさないこと。

〈引用:厚生労働省

この内容から、賞与は給与のように必ず支払われるものではなく、金額もあらかじめ決められていないことがわかります。

賞与の支給額は、企業の業績や従業員の勤務・態度・成績などに応じて決定されます。

依願退職の有給取得

「有給休暇」は、有給、有休、年次休暇とも呼ばれていますが、正式には「年次有給休暇」と言い、1年ごとに毎年一定の日数付与されます。

「休日」は元々労働義務がない日ですが、「休暇」は本来労働する義務のある日に、労働義務が免除され、働かなくても良い日を指します。

休暇には法の定めにより必ず労働者に与えなければならない「法定休暇」と、労働協約や就業規則に則って与えられる「法廷外休暇」がありますが、有給は前者の法廷休暇です。

依願退職の場合も、ほかの退職方法で辞める場合と同じく誰でも有給を取得できるという訳ではありませんが、労働基準法に記載された要件を満たしていれば、有給を取得する権利が発生します。

労働基準法 第39条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない

<引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov>

未消化の有給があれば、依願退職の場合も退職日までに有給消化は可能です。

有給を全て消化して辞めたい場合は、退職日までに使い切りましょう。有給は退職日までに消化しないと無効となります。

依願退職の流れ

最後に依願退職(自己都合退職)の流れについてお伝えします。

就業規則を確認

退職を決意したら、始めに「就業規則」を確認してください。

なぜ就業規則に目を通すのかと言うと、退職の意思を伝えてから退職日までの期間は、就業規則に規定されているからです。

就業規則を見てみると「退職の1ヶ月前までに申し出る」など、記載があります。企業によっては、2ヶ月以上必要なケースもあります。

有給を使いたい場合は、どのくらい未消化の有給が残っているかもチェックしておくと良いでしょう。

「退職願」を提出

就業規則を確認したら、退職を希望する日程を決め、上司に退職の意思を伝えましょう。依願退職の場合は「退職願」を提出します。

退職届と退職願は、それぞれ役割が違うため、意味を理解し目的に合わせて使い分けることが大切です。

  • 退職願 → 会社に退職を「願い出る」書類
  • 退職届 → 退職が確定した後、退職を「届け出る」書類

役割
退職届退職届とは、「退職することが確定」したのち、退職する旨を会社に届け出るための書類のこと。退職届には退職日を明記します。 ※退職届が会社側に到達すれば、受理されない(拒否された)場合でも退職は可能です。
退職願退職願とは、「退職したい」と会社に打診するための書類です。「◯月◯日に労働契約を解除したい」と退職を申し出る際に提出。退職の意思は、口頭で伝えることも可能。 ※希望日に退職するには、会社との合意が必要です。

引き継ぎをする

退職を申し出たら、引き継ぎをします。後任者が決まっている場合は、直接引き継ぎをしましょう。

後任者が決まっていない場合は、次の人がすぐに業務を行えるよう、マニュアルや引き継ぎに関する資料、業務の進捗状況をまとめておいてください。

また、退職日までに、必要に応じてお世話になった取引先などへ挨拶周りをします。

退職日までに離職票の発行を依頼する

退職後に失業保険の手続きをするには、「離職票」が必要です。

退職願が受理されれば、基本的に給与担当者などが準備してくれるのですが、念のために「離職票を発行してほしい」と言付けておくと安心です。

「次の退職が決まっていれば離職票は必要ないのでは?」と思われるかもしれませんが、万が一次の職場を退職し、失業保険を受ける可能性もゼロではありません。

そういった場合には、雇用保険に加入していた会社から離職票を発行してもらう必要が生じるので、退職のタイミングで作成してもらうことをおすすめします。

退職日は備品の返却・私物の持ち帰り

退職日、または有給を消化する場合は、最後の出勤時までに会社からの貸与物を返却し、私物は持ち帰りましょう

退職時に会社に返却するものには、次のようなものがあります。

・健康保険証
・制服(当日着用分はクリーニング後、郵送などで返却)
・社員証、社章、入館証など
・定期券
・その他書類、備品関係

会社からの貸与物は、勤め先により異なりますので、予めチェックリストを作っておくと忘れ防止になります。

退職日までに会社から受け取る書類は下記のとおりです。

・雇用保険被保険者証
・健康保険被保険者資格喪失証明書
・退職証明書
・年金手帳

年金手帳は必ずしも会社で保管しているわけではありません。会社が保管している場合は、返却してもらいましょう。

まとめ

依願退職とは、「労働者と会社の合意によって労働契約を解除する」という意味。そして、自己都合退職のひとつに分類されます。

ボーナスや有給取得については、会社都合退職と特に違いはありませんが、失業保険の待遇面では、給付されるまでの期間や、給付額で大きな差があるのが事実。また、退職金についても会社規定よりも金額が少なくなる可能性も。

ただし、会社都合退職の場合、再就職の面接の際不利になる可能性もあるため、どちらの退職の形が良いとは言い切れません。手続きなどをスムーズに行うためにも、依願退職の意味をしっかり把握しておくと良いでしょう。

退職の手続きに悩んだ際には、退職代行サービスを利用して相談するのも一つの手かもしれません。退職代行の選び方も是非参考にしてください。